2016 August Okayama-Kagawa

 

 
 
今年も主人のゼミの旅行にご一緒させて頂く。酷暑の続くお盆明け、今年は岡山・四国を巡る旅。早速吉備津神社を見学。桃太郎伝説のモ デルと なった大吉備津彦大神を主祭神とする山陽屈指の大社、日本建築の傑作とされる 「吉備津造り(比翼入母屋造)」の勇壮な社殿は国宝。壮大な山 陽の山々に迎 えられて爽やかなスタート。

 

 

 
 
倉敷を訪れるのは中等科の修学旅行以来、懐かしく思い出そうにもあまりにも暑 く!倉敷の街並みに快晴はあまり似合わない?風情のある街並みをしっ とり楽 しみたいと思っても、抜ける様な青空と照り付ける太陽・・・、白壁の眩しさも 目を射るよう。

 

 

   
 
 
 

倉敷の実業家大原孫三郎(1880−1943)が自身がパトロンとして援助し ていた洋画家、児島虎次郎(1881−1929)に託して収集した西 洋美 術、エジプト・中近東美術、中国美術などを展示するため1930年に開館し た、西洋美術と近代美術を展示する日本最初の美術館。NYの近代美 術館の開 館が1930年という事を考えると、創設者の先見性は大変なもの。紡績業を営 む名家に生まれた大原氏は岡山孤児院の創設者である石井十次 との出会いによ り、自身の事業で得た富を社会に還元することに目覚め、他に大原社 会問題研究所、労働科学研究所、倉敷中央病院などを 次々に設立したと言う。

私自身は再訪ということもあり、母の恩師であった人間国宝の芹澤桂介氏の作品 を所蔵する「工芸館 東洋館」で型染めの作品を拝見するのを楽しみに していた。

 

 

 
 
酷暑の倉敷を歩く・・・しだれ柳が揺れて陽炎でも見えそう。倉敷アイビースク エアは中等科の修学旅行で泊まった懐かしいホテル、楽しかった学生時 代が蘇る。

 

 

 
 

クラボウは明治時代に倉敷紡績所として創立され、初代社長に大原孝四郎が就 任。江戸時代の倉敷代官所跡地に当時としては最も近代的な紡績工場を操 業を 始め、これが後に現在のホテル・アイビースクエアとなる。クラボウ創立80周 年の記念行事として昔の原綿倉庫を改装してオープンした「倉紡記 念館」は日 本の繊維産業の歩みを知る貴重な資料が並ぶ。

 

 

 
 
夕方になれば少しは涼しいかと思いきや、熱を持った白壁に照り付ける西日。影 とのコントラストが強すぎて目がハレーションを起こしそう・・・少しでも 影のあ る道を選んで歩く。

 

 

 
 
 
 
1960年に丹下健三氏の設計により竣工したこの「旧倉敷市庁舎」、1980 年に周辺の3市が新設合併され新市庁舎の使用が始まる。郷土出身の日 本画 家、池田遥邨より489点もの作品を受贈したことを契機に市は倉敷市出身の建 築家、浦辺鎮太郎に改修を依頼、丹下作品の特徴を最大限に生かし た形で美術 館として生まれ変わらせる。丹下氏の庁舎建築の中では市庁舎としての生命は最 も短かったとはいえ何とも幸運な建物。現講堂は丹下氏がル・コルビジェのロンシャン教会堂に影響を受けて デザインしたもで、この計画の模型はNYのメトロポリタン美術館に収蔵されているそう。

 

 

   
 
 
灼熱の倉敷、ようやく陽が翳り始め白壁の続く美しい街並みが浮かび上がる。何 だか陰影礼賛の世界・・・。

 

 

   
 
 
長い一日が終わり皆さんとお食事をご一緒する。主人の事務所の元所員、N嬢も ご主人様と合流して下さり旧交を温める。それにしても暑かった・・・ 明日は 四国へ。

 

 

   
 
 
早朝にホテルを出発、快晴の瀬戸大橋を渡り四国へ。私は始めて四国に行くので 何だか嬉しい。キラキラ光る瀬戸内海の幻想的な美しさを眺めつつ四国 村へ。

 

 

   
 
 
四国村のエントランスにある長い橋、パリ製のバレエシューズにはなかなか険し い!鬱蒼と繁る森、なんだか「冒険ダン吉」に出てきそう・・・。

 

 

   
 
 
 
 
 
1976年に日本の江戸時代から明治時代の民家を中心とする古建築をテーマと した屋外型博物館、広大な敷地に四国各県と兵庫県から移築・復元した 民家、 伝統産業施設が並ぶ。重要文化財、重要有形民族文化財を含むほぼ全ての建造物 が文化財指定を受けているとか。タイムスリップして昔の生活に 迷い混んだよ うな不思議な村・・・。

 

 

 
 
   
 
 
安藤忠雄氏の設計による四国村ギャラリー。目を射るようなお天気の中、木造の かやぶき屋根の民家ばかりを見続けた後で冷んやりしたコンクリートの 質感に 目が休まる。ピカソやボナールをはじめとしたフランス近現代絵画と丸亀市出身 の猪熊弦一郎氏の作品が展示されている。屋島の南麓の斜面地に あり眼下には 立地を生かして造成された「水景庭園」と遠く高松市を望むことが出来る。

 

 

   
 
 
冷房の効いた静かな空間でひとまずクールダウン、鬱蒼とした竹林を歩く。葉の 奏でる音と虫の声、映画のワンシーンのよう・・・。

 

 

   
 
 
 
砂糖しめ小屋のほか、醤油造りの作業場の再現も興味深い。天保9年(1838 年)に作られた仕込桶や押槽(おしぶね)など当時の生活に思いを馳せ る。

 

 

 
 
 
 
丹下健三氏の設計による香川県立体育館を見学する、と言っても2014に閉館 が決まって以来中には入れない。1964年に竣工しスタンド席 1300席を 収容する競技場。2012年の耐震改修のための調査中に天井が落下する恐れが あり使用中止に、その後の耐震改修工事の入札がいずれも 入札不調となったた め耐震改修は見送られ閉館となってしまう。2017年、アメリカのワールド・ モニュメント財団から2018年版、危機遺産リス トに登録された。建築の辿 る運命はいかに・・・?

 

 

   
 
 
 
 
丹下健三氏の作品、香川県庁舎を訪れる。鉄筋コンクリートの近代建築に和風建 築の意匠を導入したと言われるそのデザインは各階の床の下に並ぶ梁の 端部、 和風建築の軒先の垂木を思わせる。 それらが全て打ち放しのコンクリートで出来ている・・・。コンクリートの打設 の正確さに驚くけれど、実際に型枠制作には宮大工が起用されたとい う。

 

 

 
 
 
ル・コルビジェが提唱したピロティもココでは2層分と高いため、ゆったり広々 としている。当時まだピロティのある県庁舎はなく、「誰もが気軽に入 れる空 間」として「民主主義にふさわしい」と丹下氏が重視したもの。その豊かな空間 を彩るのは猪熊弦一郎による壁画、高松出身の猪熊氏が県庁の建 築家に丹下氏 を推薦したという。剣持勇氏による家具・インテリアと全てに贅沢な時代。目の 前の広場も、重森三玲の日本庭園史大系にも選ばれている 丹下研究室の力作。

 

 

   
 
 
 

 

 

 
 
夕方になっても暑さは一向に収まらず、パーキングから地上に上がると眩暈がす るほど暑い・・・。JR丸亀駅前広場に面して建つ丸亀市猪熊弦一郎現 代美術 館、谷口吉生氏の設計で延床面積8000平方メート ルの大型施設。猪熊弦一郎氏の画業顕彰と地域の美術進行を目的 に1991年 にオープンしたもの。

 

 

 
 
 
高松に生まれ戦前はパリで学び、戦後はNY、そしてハワイで過ごして来た猪熊氏の スケールの大きな人生に思いを馳せつつ作品を拝見する。フランスでは アン リ・マティスの指導を受けた話、三越の包装紙のデザイン(文字はやなせたか し)、戦後のNYではマーク・ロスコ、イサム・ノグチ、ジョン・ ケージなどと 交友関係を深め、晩年は温暖なハワイで創作活動を続けたとか・・・。

 

 

 
 
酷暑は夕方になっても収まらず湿度も上がって大変な蒸し暑さ・・・。瀬戸大橋 の袂、香川県立東山魁夷美術館に辿り着く。エントランスの端正な雰 囲気と 瀬戸内海を見渡すパノラミックな景観にようやく一息。日本画家東山魁夷の作 品のみを収蔵する個人美術館、東山すみ夫人より寄贈された版画 作品270点 を公開する施設として谷口吉生氏の設計により2005年にオープンした。地方 都市にある小さな美術館であるにも拘らず、来館者の数は 異例の水準であり東 山魁夷の人気の高さが伺える。

 

 

   
 
 
ようやく旅程も無事にこなし、瀬戸大橋を眺めながら皆でお茶を頂く。のんびり しているうちににわかに雲行きが怪しくなり早めに集合写真を撮りま しょう、 という事に・・・。

 

 

   
 
 
雨雲がぐんぐんと押し寄せてきてあっという間に暗くなる。かろうじて雨が降る 直前、瀬戸大橋をバックに。そしてこの後バケツをひっくり返したよう な大雨 に・・・。

 

 

 
 
大雨の中、四国最後の見学地「坂出人工土地」に向かう。(正式名称は坂出市営 京町団地)1.2ヘクタールほどの土地に、地上レベルを駐車場として その上 にコンクリートの人工地盤を建設、デッキ上に歩道・広場・公園などのある住宅 地を建設するという、あまりにも斬新な二階建ての都市。香川県 出身で丹下健 三氏の協力者であった浅田孝氏らが中心になって1962年に構想され、メタボ リズムの建築家、大高正人の設計によって4期に分けで 1986年に完成した この不思議な「人工土地ー人工都市」。坂出市が地権者から屋上権を購入して建 てると言う前代未聞な仕組みで所有権問題をクリ アしこの「空中都市」が完成 したけれど実現例は現在に至るまでここだけだという。あまりにも不思議な体験 で、何だかジャック・タチの映画のよ う・・・。

 

 

   
 
 
不思議な「空中都市」にも町内会がある・・・。

 

 

   
 
 
酷暑の後の豪雨、訪ねた「空中都市」の不思議な感覚・・・ボーゼンとしつつ空 を見上げると虹、なんだか夢の中の出来事のよう。

 

 

 
 
 
夕暮れの中、瀬戸大橋を渡って岡山に戻る。初めての四国、さまざまな建築を訪 ね一日しか居なかったとは思えない。劇的なお天気と最後に訪ねた空中 都市の 不思議な感覚、橋を渡って現実の世界に戻っていくような気分。美しい夕陽に瀬 戸内海の水面が光る。

 

 

 
 
 
1979年竣工の岡田新一氏設計の岡山市立オリエント美術館。東京大学東洋文 化研究所の指導のもと形成されたコレクションは、古代オリエントの美 術品を 学問的に系統だった資料としてみることが出来る貴重な美術館。天井から降り注 ぐ自然光が作り出す陰影が、不思議な質感の壁に映って何とも美 しい空間。

 

 

   
 
 
 
trip index 最後の見学地、岡山県立美術館へ。同じく岡田新一氏の設計と言うがずいぶん違 う印象。「岡山県ゆかりの美術資料の収集」という理念のもと古書画、 日本 画、西洋画、工芸、彫刻、写真、書、と多岐に渡り、見るのもなかなか大変。よ うやく短いながらに大変充実した岡山・四国のゼミ旅行も終わり、 皆さん本当 にお世話になりました! page top

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